「沖縄の古民家」を、残していくために ― 沖縄・今帰仁から
沖縄の古民家というと、赤瓦に漆喰、門の内のヒンプン――そんな姿を思い浮かべる方が多いかもしれません。けれどゆくみやは、そのどちらでもありません。セメント瓦の屋根で、ヒンプンもない。教科書どおりの「典型」ではなく、沖縄の戦後の暮らしがそのまま続いてきた、等身大の家です。
こういった古民家を、壊さずに残していきたい。その思いから、ゆくみやは生まれました。
古民家は、放っておけば消えていく
古民家を維持するのは、手間もお金もかかります。屋根は塗り替えが必要で、木は傷み、草木は伸び続ける。だから沖縄のあちこちで、古い家は手入れが追いつかず放置され、やがて取り壊されていきます。
そんな手間もお金もかかる古民家を残すために、宿としての収益を、家を直し、守るために使う。泊まっていただくことが、そのまま一軒の古民家を未来へ残す力になる――そういう場所でありたいと考えています。
庶民の屋根「セメント瓦」
ゆくみやの屋根は、焼き物の赤瓦ではなくセメント瓦です。
沖縄の住まいは、茅葺き → 赤瓦 → セメント瓦 → 鉄筋コンクリート、と移り変わってきました。セメント瓦は、戦争で赤瓦の工場も職人も失われたあと、戦後復興期(昭和20〜40年代)に「復興瓦」として沖縄じゅうに広まった屋根材です。今では作る工場もほとんど残っておらず、ゆくみやの屋根は「赤瓦より新しく、コンクリートより前」という、沖縄の一時代をそのまま伝えるものです。
このセメント瓦は、表面の塗装で雨を防いでいます。だから塗装が傷めば、瓦が水を吸って傷み、雨漏りにつながる。先日、その屋根の塗り替えを行いました。色を塗り直すことは、見た目を整えるためだけではありません。この屋根をあと何十年と持たせ、家そのものを雨から守るための、欠かせない手入れなのです。塗りたての屋根は、また新しい時間を刻みはじめました。

屋敷を守る「フクギ」
ヒンプン(門の内の衝立)を持たないゆくみやを、昔から守ってきたのがフクギ(福木)です。
沖縄では屋敷の周りにフクギを植え、防風林としてきました。濃い緑の葉が台風の暴風をやわらげ、強い日差しをさえぎり、目隠しにもなる。「福」を呼ぶ縁起木でもあります。
ただ、フクギも生きものですから、放っておけば枝が伸び、茂りすぎれば家にも光にも障ります。先日、そのフクギの剪定を行いました。風を受け止める力を保ちながら、家と庭に光と風を通す――木を切ることもまた、家を守る手入れのひとつです。手をかけ続けることで、フクギはこれからも何十年と、ゆくみやの暮らしを守ってくれます。

深い軒「雨端(アマハジ)」
沖縄古民家の心地よさの核心が、雨端(アマハジ)――母屋から張り出した深い軒下の空間です。
亜熱帯の強い日差しと横なぐりの雨を室内に入れず、家の中をひんやり保ちます。雨宿りに、夕涼みに、おしゃべりに――内でも外でもない、沖縄ならではの居場所。ゆくみやで過ごす時間の気持ちよさは、この雨端に支えられています。

素朴な間取りと、今も使う木の引き戸
ゆくみやの座敷は、客間の一番座と、その隣の二番座まで。三番座のない、素朴な暮らしのかたちです。台所はもとの間取りにはなく、後年西側に増築されたもの。家族の暮らしに合わせて少しずつ手を入れてきた歴史が、そのまま残っています。
そしてゆくみやは、今でも木の引き戸を使い続けています。アルミサッシではなく、木の建具。開け放てば外と中がひとつながりになって風が通り抜け、閉めれば家を守る。「全部開けて風を通す/閉めて守る」という沖縄家屋の知恵が、今も現役で生きているのです。引くときの木の音さえ、この家が刻んできた時間の証です。

泊まることが、残すことになる
ゆくみやの、セメント瓦・フクギ・雨端・木の引き戸という一つひとつが、沖縄の人々が実際に暮らしてきた等身大の時代の記憶を伝えています。
その記憶を未来へつなぐために、私たちは手をかけ続けます。屋根を塗り、木を整え、建具を直す。そして、ここに泊まっていただくことが、その手入れを支える力になります。ゆくみやで過ごす時間は、一軒の古民家を残していく時間でもあるのです。
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